役人の思考によって一つの新たな市場が潰されていくということについて

医薬品のネット販売を禁止した厚生労働省令の違法性について争われた裁判で
東京高等裁判所の判決がありました。

判決内容は、報道で知る限りですが
訴えを起こしていたケンコーコム株式会社と有限会社ウェルネットの2社の販売権について認める地裁からの逆転判決を言い渡したとのことです。


もちろん薬をネットで販売することが危険なのか安全なのか
そこは確かに議論の分かれるところなのかもしれません。

きちんと検証していくべきところでしょう。


ただ、私はそれを差し置いても
薬のネット販売という一つの新たな市場を、
国会審議も経ない省令という命令でつぶしてもいいのか、と強く思うわけです。


薬のネット販売というビジネスは
インターネットが登場しなければ存在せず
ここ10年くらいの間にこの国に新たに生まれた市場であることは間違いないでしょう。

禁止される前までにどの程度の市場規模であったのかはわかりませんが
今後間違いなく伸びていくであろう市場であったと思います。


今回の薬のネット販売禁止については
現在すでに登場していた市場について禁止する規制をかけたわけですので
市場自体が消滅してしまうことを念頭においていることは間違いないでしょう。


これから伸びようとしている市場に対して
一つの行政庁が待ったをかける
いや、ビジネスそのものをできなくする。

省令一つで
一つのビジネスモデルが潰されるわけです。

果たしてこれは民主主義国家なのでしょうか。




今回の問題については私も報道で知る限りの情報しか持ち合わせていません。
ですが少し解説をすると

報道なんかでは改正薬事法に伴い医薬品のネット販売が禁止された
というような形で書かれており
薬事法という法律で医薬品のネット販売が禁止されたのだと受け取られがちですが

厳密に言うとそうではありません。


薬事法において定められていることは

医薬品を販売する場合において、
第一類医薬品については、薬剤師に書面を用いて、その適正な使用のために必要な情報を提供させなければならず
第二類医薬品については、薬剤師が、その適正な使用のために必要な情報を提供させるよう努めなければならない。
(要約しています)
と定められています。


きちんと情報を提供しなければならないとはされていますが
決して対面で販売しなければならないとは規定されていません。


そしてこの法律を受けて施行された厚生省令(薬事法施行細則)で

第一類医薬品、第二類医薬品について、郵便等による販売を禁止し、
また、店舗での対面販売をしなければならないとしているのです。



法律と省令の違いについてですが

法律で決められなかった個別具体的な方法や手続きについて省令で決めるというのが
基本的な行政法の流れです。

例えば薬局を開設するには都道府県知事の許可が必要です。

これは「薬事法」で定められています。


じゃあ、その許可を取るためにはどうしたらいいのか
その手続きの詳細について定められるのが省令となります。

申請書類は何が必要なのか、などの細かい規定については
法律ではなく省令で決めるというのが一般的なのです。


そして法律は国会での議決が必要ですが
省令は国会での議決が必要ありません。



こういう流れなのは、法律を適切に運用するためのものですので
それはそれでいいのですが
今回のケースのように
法律では禁止されていないはずなのに
省令で禁止されることになってしまうというようなことがしばしば起こります。


何かを禁止するということは
その人の権利を奪うという行為になります。

これを国会という民主主義の決定機関を経ずに
役所が勝手に決めてしまうということが起こってしまうのです。


実はこの問題は今回のこの医薬品のネット販売だけではありません。


その他、いろんな省令がこういう形でビジネスの市場を潰したり
または潜在的に存在する新たな市場でのビジネスを出来なくしたりしています。

ひどいものになると
国民への拘束力がないはずの通達レベルで平気でそんなことが行われているわけです。


規制が必要な分野があったり
必要な理由があるということはわかります。

ですがそれならばせめて国会審議を通った法律で禁止、規制すべきではないでしょうか。


一つの市場を潰すということは
国民の権利を剥奪するということです。

それを国会審議を経ない省庁の命令によってなされるということはいかがなものでしょうか。


民主主義である限り
民主主義のルールに則り国民の権利を規制すべきだと私は思います。



もっと自由にビジネスをできるようにして欲しい

っていうか、役人が役人の考えだけでビジネスを潰すってどうなのよ。


と、今回の裁判はそんなことを考えさせられました。